2009.7 第15号 技術通信 道立林業試験場発(1)
日本海北部地域の海岸林造成
-植栽試験地の16年間の結果から-
林業試験場 森林環境部 福地 稔
はじめに
日本海北部海岸地域は気象条件が厳しく,特に冬期間は強い海風が吹き付ける地域です。この中でも稚内市抜海地区は海岸から平坦な地形が続き,内陸まで海風が侵入することから,農地等の保護のため,1973年から海岸林造成事業が行われてきました。このような中で,林業試験場ではこの地域の海岸林造成に適する樹種や産地を明らかにするため,事業地に隣接する平坦地に1990年に植栽試験地を設定しました。すでに16年経過し,生残率や成長の違いが明らかになってきたので,これまでの生育経過を紹介します。
植栽した樹種と産地
植栽地は海岸からおよそ500m内陸に入った場所で,土壌は未熟な砂土です。これまでの海岸林造成の経験から,ミズナラ,カシワ,イタヤカエデなどの広葉樹3種と針葉樹3種を植栽しました。植栽列が海岸線と直角になるように,列間2m,苗間0.5mの間隔でそれぞれ25本ずつ植栽し,海岸側と内陸側に隣接して2組の試験区を設けました。植栽後5年間は毎年,それ以後は数回樹高や生存本数を調べました。ここでは産地数が10産地と多く,海岸林に多く植栽されているミズナラについて述べます。
産地による生残率の違い
これまでの結果から,苗木は植栽直後に枯損するものが多く,その後枯損するものは少ないことがわかってきました。図-1に,ミズナラの産地別生残率の推移を示しました。植栽直後は産地間で枯損にばらつきが大きく,多いもので植栽直後に40%近くまで枯損したものもありました。植栽直後に枯損したものが多い産地は,内陸産(足寄や北見),道南産(函館,戸井,松前等),折川(島牧
村)や豊牛(浜頓別町)などでした。
一方,稚咲内(豊富町),抜海(稚内市),天塩,稚内といった日本海北部海岸産や枝幸産は当初から枯損する個体は少なく,その後も高い生残率で推移していました。全般に,植栽直後を除くと枯損は少なく,16年後の生残率は7年後とほとんど変わっていませんでした。なお,一部の産地で生残率が上昇しているのは,根元まで枯れ下がった個体が萌芽により回復したためです。
植栽後16年間の成長
図-2に,産地別の樹高成長の推移を示しました。植栽当初は夏期に上長成長するものの,冬期間には枯れ下がるため,樹高はほとんど横ばいで推移しましたが,植栽5年後あたりからしだいに枯れ下がり量よりも成長量が大きくなりました。また,産地による違いがより顕著になることが明らかになりました。さらに,7年後には
産地間差が拡大し始め,16年後には稚内,抜海,稚咲内,天塩など日本海北部海岸産のものは平均して1m以上に成長していました。一方,内陸産や道南産のものは成長と枯れ下がりを繰り返しており,16年後の樹高は植栽時とほとんど変わっていませんでした。
写真は成長の良い稚咲内産(左)と抜海産(右),及び成長の劣る道南産(中央)の植栽16年後の状況を示しています。このように,
生残率が高く成長の良好な産地の
ものは樹冠が完全に閉鎖し,海岸林としての機能を発揮し始めていますが,生残率が低く成長と枯れ下がりを繰り返している産地のものは樹冠が閉鎖することなく,機能を果たしているとはいえません。
今回はミズナラに限って述べましたが,カシワでも同様の結果でした。これまで言われてきたように,とくに気象条件の厳しい日本海北部の海岸林造成を成功させるためには,とくに産地を吟味し,天然生の海岸林が生育している付近から取ったタネを用いることが重要と言えます。